イーブイが進化できるようになる日まで
イーブイは、それぞれの条件を満たす事で全く異なる9タイプに進化する、まさに多大なる未来への可能性を秘めたポケモンだ。
夢のある設定や、その見た目の愛らしさも相まって、年々魅力的なポケモン新しく登場するなかでも高い知名度を誇り、多くのグッズが発売されるほど人気だ。
先日といってももう1ヶ月以上前の話になるが、自分がポケモンになるとしたらどんなポケモンが似合うか、という話で友人と盛り上がったことがある。何体かのポケモンを挙げたあと、やはり話題はイーブイの進化系、通称「ブイーズ」にも及んだ。
多くの場合、1体のポケモンの進化系は1つしかない。あっても雌雄や環境変化由来のフォルムの違いくらいで名前まで変わるということは滅多にない。(実はあまりポケモンに詳しいわけではないので例外もきっといるだろう)
それがこのイーブイというポケモンは最初は皆同じであるはずなのに、多種多様な魅力をもった9タイプのポケモンに進化できてしまうのだ。
義務教育課程や高等学校という大多数の皆と同じ教育課程を終え、新たな志をもって大学や専門学校、そして就職というそれぞれの信じる道を進まんとする私たちがこのポケモンに少なからず興味をもってしまうのは必然ではないだろうか。
ブイーズの中なら自分たちにはどんなポケモンが似合うかを嬉々として話し合っていたわけだが、私はそこで聞いた一言に未だ拭えない靄のようなものを感じている。
「○○(私)はイーブイって感じがするよね。」
それだけを聞いた時は素直に嬉しかった。
くりくりとした目とふわふわした毛並み。人を惹きつけてやまないあのポケモンとイメージを重ねてもらえるのは手放しに嬉しかった。
しかし、私が引っかかっているのはその次だった。
「わかる!一生進化しないでイーブイのまま!って感じがする!っていうかそのままでいて欲しい!」
文脈や言葉通りに受け取るなら、一生可愛いままでいて欲しい!(自画自賛のようになるが)という意味だろうし、おそらくその友人もそのような意味を意図していったのだと思う。
しかし、私は穿った見方をしてしまう人間だ。
イーブイの最大の魅力は何なのか。
あの可愛い大きくてくりくりとした瞳なのか。それともお日さまのにおいがしてきそうな柔らかい毛並みなのか。あの短い4つの足をせっせと動かして楽しそうに野原を走り回る姿なのか。
私の答えは否だ。
可愛いだけのポケモンならたくさんいる。イーブイがただ可愛いだけなら、あんなにも人を惹きつけるポケモンにはなれなかったはずだ。
イーブイの最大の魅力はやはり9つの進化系を有する唯一のポケモンであるということだろう。それぞれの個性や特性に特化したフォルムは、その格好の良さに私たちの目を輝かせるだけでなく、いつか自分も自分らしい要素を纏って開花したいと憧れを抱かせるには十分すぎるのではないだろうか。
だが進化をしないイーブイはただの可愛いだけのポケモンに過ぎない。
進化をしないでいてほしいと言われた私もただ可愛いだけの人間ということになる。そして可愛いといった軒並みな世辞くらいしか特徴がない。そういえば、自己紹介の時になんと自分を紹介するか悩みに悩むがこれといった特徴は一切出てこない。
そして私は更に穿った見方をする。
可愛いだけということはつまり阿呆のようだということなのではないか。あの可愛い顔も、見方を変えればアホっぽい顔に見えなくもない。可愛さとアホっぽさは時に紙一重だ。
難しいことなど何も考えず無邪気に走り回るだけの存在。イーブイが難しいことを考えている状況など私たちは想像したことがあるだろうか。イーブイが難しい顔をして考え込みそうな話題と言えば、せいぜい今日の晩御飯はなんなのかということくらいではないか。
心当たりがないわけではない。
当たり障りのない会話。現実から目を背けた頭の軽い発言の数々。
波風の立たない人畜無害な人格を何年もかけて作り上げてきたのはこの私自身であることはよくわかっている。
小学生の時の私を知る人からはよく、「めちゃめちゃ変わったね」と言われるが、それも私が自分らしさであったという口うるささや好奇心の強さ、お節介焼きな部分を日々殺し続けてきたからだろうか。
中学に入学した時から掲げている夢があり、適性は感じているものの夢に対する確信的な熱を感じられないまま、今のいままで掲げ続けてきたのは結局のところそれが一番当たり障りがないからだ。
それに準じた大学へ進みいざ入学式を終え、履修登録の説明を受けて家に帰ってきた今日も、急に不安になって泣き出した。
自分のやりたいことがなんなのか、自分のやっていることはなんなのか、正直よくわからない。
私の友人は皆個性がはっきりとしている。
怜悧で颯爽とした、青がよく似合うシャワーズのような彼女。
ふわふわとした雰囲気で服やメイクが大好きな、ニンフィアのような可愛い彼女。
ブースターのように情熱的な彼女や、ミステリアスなエーフィ―のような彼女。
皆自分で決めた自分なりの進路を持ち、イーブイがたった一つのタイプへ進化するように自分の夢へ進んでいる。
そんな彼女たちに比べれば、自分は一向に進化しない、頭の軽い、阿呆以外の何者でもないような気がしてくる。
だが、私はこのままでは終わりたくない。
何になりたいのかわからなくても、何をしているのかわからなくても進むしかない。
自分らしさとは何か、自分のやりたいことは何か、自分は何に楽しさを感じ、何を大事にしていきたいのか。
私は胸を張って自分の仕事や行動に誇りを持って生きていきたい。
そのためにも、自分の琴線に触れたことを大切にしていこうと思う。大学の面白そうな授業を積極的にとってみよう。今の進路とは大幅に違うけれど、少しだけ気になっている分野も調べてみようか。もしかしたら新しい趣味が見つかるかもしれない。
大学の4年間はあっという間に過ぎると聞く。今まで18年かけて見つかっていない答えがあと4年ぽっちで見つかるかは分からない。
自分と向き合うのはとても辛いから、答えを見つけるまでに何度も泣くことになるだろう。今もまだ泣いているくらいだし。
だが私はイーブイだ。盛大に人生の迷子になっている、ただの学生。
迷子になったぶん、悩んで苦しんだぶん、美しく進化ができるよう、今は進化のためのエネルギーを存分に貯めたいと思うことにする。
きっと明日は寝不足!おやすみ。